「祭の男」宮田宣也のブログ/明日がもっとスキになる

今,守るべき,つなぐべきこころって何だろう。祭の男,宮田宣也の祭ライフと,祭哲学について。

浜の咆哮②~宮城県石巻市雄勝町大須八幡神社例大祭〜

今日の水温は9℃。

例年よりもかなり低い。

ひやりとした海に身を浸してみた。

身震いするほど,というほどでも無かったが冷たい。

神輿は対岸の岩場へいく。

途中たくさんある岩場には岩海苔が群生し,足下はとても不安定だ。

何度も足を滑らせた。

しかし運んでいる神輿を落とすわけにはいかない。

足下だけを見ながら,神輿に身を委ね,時に反発しながら目的地へと向かっている。

神輿が岩場の上へ降ろされた。

そこは大須集落の突端,防波堤となる岩のてっぺんだ。

岩の上では獅子が舞う。

担ぎ手はしばし休憩しながら太鼓と笛の音を聞いていた。

人が集まって来た。

いよいよ,海上渡御。

神輿はまた集落の方へ戻り,港の入り口付近で入水する。

足場が悪い。

また何度も滑りそうになりながら,先ほど同様に慎重に進んでいった。

「ワーッ!」

声を合図に神輿は高く掲げられ,海へ駆け込む。

やはり水は冷たい。

今年は潮が浅い。

満月の二日あと,潮は引いているようだ。

と同時に,昨年よりも砂が深くなっている。

工事の影響なのか,数年前は胸まで浸かっていた海が,今日は膝までしかない。

港を回ると,ギャラリーは歓声を上げる。

しかし今日は,宮出しの時に担ぎ棒が折れてしまっている。

僕は折れた箇所をかばうように,折れた根元を包んでいた。

やはり水は冷たく,少しずつ足の感覚がなくなって来る。

砂の上は良いが,時に出現する岩が危ない。

一人が崩れると,神輿が傾き海へと落ちそうになる。

僕は必死に抑えた。

今年は特に人数が少なく,宮出で神輿が落ち,棒が折れている。

これ以上,残念な姿を見せるわけにはいかない。

誰かがつまずき,神輿が崩れた。

岩に膝をついた。

「しっかりしろ」

僕は棒を離さなかった。

重い神輿は,担ぎ棒を離したら簡単に落ちてしまう。

ひとりひとりが真剣に向き合わなければならない。

神輿は一人では上がらないが,誰かに任せれば言い訳ではない。

最後まで力を尽くすと信じているからこそ,一生懸命になれる。

膝が痛い。しかし神輿は,もう一度担ぎ上げられた。

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崩れかけた神輿。しかし離すわけにはいかない

神輿は海を上がり,神楽舞台のある宮守へと戻っていく。

神輿が最後,神輿台に納められる前,毎年激しい攻防があるのだが今年は大事をとって行われなかった。

棒へのダメージが心配だ。

神輿が納められると,もう新しい担ぎ棒は完成していた。

神楽舞台の上では神事が行われ,応急で作られた担ぎ棒と取り替えられた。

本番は,夜。

仕切り直しだ。

いつもくたくたで昼間はずっと昼寝をしているが,この日はあまり疲れていない。

水に濡れた衣装を干して,一度着替えた僕は宮守の中から神楽を眺めていた。