今日の水温は9℃。
例年よりもかなり低い。
ひやりとした海に身を浸してみた。
身震いするほど,というほどでも無かったが冷たい。
神輿は対岸の岩場へいく。
途中たくさんある岩場には岩海苔が群生し,足下はとても不安定だ。
何度も足を滑らせた。
しかし運んでいる神輿を落とすわけにはいかない。
足下だけを見ながら,神輿に身を委ね,時に反発しながら目的地へと向かっている。
神輿が岩場の上へ降ろされた。
そこは大須集落の突端,防波堤となる岩のてっぺんだ。
岩の上では獅子が舞う。
担ぎ手はしばし休憩しながら太鼓と笛の音を聞いていた。
人が集まって来た。
いよいよ,海上渡御。
神輿はまた集落の方へ戻り,港の入り口付近で入水する。
足場が悪い。
また何度も滑りそうになりながら,先ほど同様に慎重に進んでいった。
「ワーッ!」
声を合図に神輿は高く掲げられ,海へ駆け込む。
やはり水は冷たい。
今年は潮が浅い。
満月の二日あと,潮は引いているようだ。
と同時に,昨年よりも砂が深くなっている。
工事の影響なのか,数年前は胸まで浸かっていた海が,今日は膝までしかない。
港を回ると,ギャラリーは歓声を上げる。
しかし今日は,宮出しの時に担ぎ棒が折れてしまっている。
僕は折れた箇所をかばうように,折れた根元を包んでいた。
やはり水は冷たく,少しずつ足の感覚がなくなって来る。
砂の上は良いが,時に出現する岩が危ない。
一人が崩れると,神輿が傾き海へと落ちそうになる。
僕は必死に抑えた。
今年は特に人数が少なく,宮出で神輿が落ち,棒が折れている。
これ以上,残念な姿を見せるわけにはいかない。
誰かがつまずき,神輿が崩れた。
岩に膝をついた。
「しっかりしろ」
僕は棒を離さなかった。
重い神輿は,担ぎ棒を離したら簡単に落ちてしまう。
ひとりひとりが真剣に向き合わなければならない。
神輿は一人では上がらないが,誰かに任せれば言い訳ではない。
最後まで力を尽くすと信じているからこそ,一生懸命になれる。
膝が痛い。しかし神輿は,もう一度担ぎ上げられた。
神輿は海を上がり,神楽舞台のある宮守へと戻っていく。
神輿が最後,神輿台に納められる前,毎年激しい攻防があるのだが今年は大事をとって行われなかった。
棒へのダメージが心配だ。
神輿が納められると,もう新しい担ぎ棒は完成していた。
神楽舞台の上では神事が行われ,応急で作られた担ぎ棒と取り替えられた。
本番は,夜。
仕切り直しだ。
いつもくたくたで昼間はずっと昼寝をしているが,この日はあまり疲れていない。
水に濡れた衣装を干して,一度着替えた僕は宮守の中から神楽を眺めていた。