「祭の男」宮田宣也のブログ/明日がもっとスキになる

今,守るべき,つなぐべきこころって何だろう。祭の男,宮田宣也の祭ライフと,祭哲学について。

神輿を担ぐ友の右肩②<完結>俺にはまだ右肩がある〜府中大国魂神社くらやみ祭〜

身体が歪みそうだ。

あまりの重量を身体にかけると,肩だけでなくあちこちに負担が来る。

肩,腰,足,様々なところが連動し,立ち向かっている。

溜まってくる疲労は,アクセルをふかすように大きく叫ぶとまた鼓舞される。

重い神輿だ。

大国魂神社くらやみ祭。

還御祭「おかえり」

神輿は動き始めた。

御旅所を出発し,府中の街を巡りながらまた神社へと戻っていく。

途中、何度か他の神輿とすれ違う。

その度、力を振り絞って神輿を揺らす。

府中のくらやみ祭は,大国魂神社がかつて武蔵国の国府の総社宮だったという歴史から,国府祭であるとも言われている。

武蔵国の各神社から神輿が神社へとやってきたのだ。

平安時代末期には主要六社が祀られ,「武蔵六所宮」と呼ばれるようになった。

現在担がれている8基の神輿は,一ノ宮から六ノ宮,そして大国魂神社本社神輿,御霊宮の神輿となっている。

僕らが担いでいるのは,御霊宮の神輿だ。

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束の間の休憩。担ぎ手にはおむすびや豚汁が配られる

各神輿は台輪幅4尺とかなり大きく,ずっしりと肩に響く。

途中の休憩でいただく豚汁とおむすびがなんとも美味しい。

まだ明け方、眠い目をこすりながら力いっぱい担いだ後だ。

空腹と疲労が最高の調味料になっている。

友の姿

「体の具合は大丈夫か?」

僕は友人に訪ねた。

1年ぶりにあった彼の肌は荒れている。

左目の輝きが,無い。

「目、大丈夫か?」

「もう、見えない」

彼の体は,左肩あたりに出来た腫瘍に蝕まれてしまっているようだ。

そんなに悪くなってしまっていたとは知らなかった。

彼の様子は変わってしまっていたが,明るい振る舞いは変わらなかった。

しかし,神輿を担ぐのは大変そうだ。

いつも真っ先に棒にしがみつき,力強く神輿を揺さぶる姿はまだ見ていない。

近くを歩いているだけだった。

「無理すんなよな」

そんな状態の中でも,またこの祭に呼んでくれたことが嬉しかった。

神輿を担がなくても早朝2時半には集合し,神輿の準備をしなければいけないこの祭は体力を奪われる。

神輿はいよいよ宮入へ。

大国魂神社の最後の宮入は,圧巻である。

一基ずつ巨大なお神輿は神社境内に集まり,人の背ほどはあろうかという太鼓が氏子に引かれていく。

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境内に集まる巨大な神輿。その様子は圧巻だ。

境内には一般の人が入ることは出来ない。

そこは1000年以上守られて来た神域なのだ。

宮入

拝殿の前、凄まじい人の渦が蠢いている。

神輿は神社に近づいていく。

重い。

段々と神輿は下がってくる。

何度も肩を入れ替えながら,全身を鼓舞する。

力を入れ,叫ぶと汗が噴き出してくる。

力の限りぶつかっていく。

一瞬目を閉じる。まだ苦しくはない。

ふと隣を見ると,友人が肩を入れていた。

「見ているだけでなんかいられるか」

彼の表情はそう語っていた。

きっと僕の一生懸命は彼に伝播し,いてもたってもいられなくなった。

そういう男だ。

「俺にはまだ右肩がある」

隣にいる彼からまた,力をもらった。

僕は一度大きく声を出し,全身に力を込めた。

今僕が背負っているものは神輿だけではないのだ。

最後まで,やり通さなければ。

今僕に呼応しているのは,彼の魂しかない。

この祭に毎年来る意味も,そうなのかもしれない。

だけどそれでいい。

「また来年も一緒に担ごうな」

僕はまた今年も彼との約束を守ることが出来た。