「祭の男」宮田宣也のブログ/明日がもっとスキになる

今,守るべき,つなぐべきこころって何だろう。祭の男,宮田宣也の祭ライフと,祭哲学について。

僕が人生で最高に美味しかった物は全部無料でした〜君が何を食べているか言いたまえ、そうしたら君がどんな人間か言って見せよう(フランスの有名な食通・ブリア・サバラン)〜

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僕は美味しいものが好きだ。

そんな人は,たくさんいるだろう。

「食通」「グルメ」と言われる人もいる。

そんな人に,僕はよくこんな質問をする。

「あなたの人生で一番美味しかったものは何ですか?」

美味しいもの,について考察してみる。

美味しい,という感覚

さて,美味しさとは何か。

美味しさには,二つの要素が関係している。

一つは,食べる物の絶対的な味だ。

冷凍でいい加減に解凍したマグロより,本マグロの生の方がうまい。

数年前の古々米を炊飯器で炊いて放っておいたお米より,新米を土鍋で炊いた方がうまい。

素材や,調理によって味は大きく変わる。

材料,調理方法,調理人,状態。

しかし,もう一つ,美味しさに関わる大きな重要な要素がある。

それは,食べる人,あなたの状態だ。

空腹か,どこで食べているか,誰と食べているか,食べるまでにどんな苦労があったか,リラックスしているか。

食べる環境によって,「美味しさ」は大きく変わる。

食べ物の味×食べる人の状態や環境=美味しさ,と言える。

しかし後者は,あまり明確に意識されていない。

空腹は最大の調味料

僕の仲良くしている脳科学者は,空腹は最大の調味料だという。

人が空腹である時,脳は活性化しており,満腹時より味覚は鋭敏になる。

食べる物がいい物であれば,その美味しさは倍増するのだ。

殺風景な部屋の中で食べるより爽やかな野外で食べた方が美味しいし,一人で食べるよりも大人数で大騒ぎしながら食べた方が美味しい。

それはつまり,脳が活性化しているからだ。

食べ物の味だけでは,本当に美味しいと言う感覚は完成しない。

単純でもいい,手間がかかってもいい。

最高の状態の食べ物を,最高に脳が活性化して素材の味とそこにある想いが体を駆け巡るとき,身を震わすような「美味しさ」を感じるのだ。

僕の人生で一番美味しかった物

僕が「人生で一番美味しかった物」は,石巻で食べた岩のりのおむすびだ。

2012年の春,石巻の雄勝の神輿が復活した。

会津で修理を終え,夜遅く高速を走り,到着したのは朝4時。

浜の人達はずっと待ってくれていた。

ギリギリまで疲労して,朝日が昇り,やっと到着した公民館。

そこで浜のお母さんが握ってくれていたまだ温かい岩のりのおむすび。

普通の海苔の代わりに,浜のお母さんたちが磯で採取して,乾燥させた岩のりが巻いてある。

その香りは素晴らしく爽やかで,浜の朝,眠気と,疲労と,空腹でふらふらだった僕の体を鮮列に走った。

それから雄勝に行くと,お母さんは良く作ってくれる。

船上で食べる採れたてのウニも,アワビも,岩牡蠣も,美味しいが岩のりの美味しさ,その味の記憶には敵わないだろう。

本当に美味しい物は,無料

僕も色んな所で色んな物を食べて来たが,本当に美味しいと思った物にお金を払ったことは無い。

どんな高級料亭で食べる豪華絢爛,鮮やかで繊細な食べ物より,浜の祭りで神輿を担いで仲間たちと途中の休憩で食べるお母さんの手料理,浜のごちそうには敵わない。

どんなフランス料理屋のコースより,フランスの小さな村で神輿を担いだ日の夜,元ラガーマンでシェフの大きな体の日本好きなお父さんが作ってくれた郷土料理,カスレを仲間たちと腹一杯食べた美味しさには敵わない。

そして,家族が僕のために作ってくれた僕の好物の美味しさにも。

本当は,何が本当に美味しいかは,誰もが知っている。

都内のオーガニックレストランで食べる有機野菜より,田舎の庭で採れたキュウリをばあちゃんが作った味噌をつけてその場でかじる方が美味しい。

料亭の刺身より,浜で朝漁師のおっちゃんが獲ってきてくれた魚やウニや貝を,お母さんがさばいてくれたのをそのまま食べる方が美味しい。

腕自慢,材料自慢のシェフが高いお金で作る料理より,家族や恋人が想いをこめて作ってくれた物の方が美味しい。

本当に美味しい物に,値段はついていない。

「売ってもいい」ようなものしか売っていないのだ。

本当に美味しい物は,誰か知らない人に食べさせるのでは無く,本当に大切な人と食べる。

・君が何を食べているか言いたまえ、そうしたら君がどんな人間か言って見せよう(フランスの有名な食通・ブリア・サバラン)

その人が何を食べ,何を美味しいと思っているか。

それはそのまま人となりを表している,と考える。

僕は個人的に,「人生で一番美味しかったもの」が「高級レストランの,最高の材料,最高の調理方法の,聞いたこともない料理」を答えられると,興ざめしてしまう。

「人生で一番美味しかったもの」が,知らない人が作った料理なわけはないのだ。

今,山に行くと,1メートルもあるような自然薯が採れる。

掘るだけで,5時間以上。

深さ,直径1メートル以上の穴を掘らないと最後まで獲りきれない時もある。

大事に大事に,化石を掘るように掘り起こし,家に持って帰って,しっかり取った出汁で薄めて食べる。

その鮮烈で,爽やかな味といったら!

こんなに苦労して掘った自然薯を売ってくれと言われても売らない。

本当に大切な仲間と,こっそり宝箱を開けるように食べる。

日本の原風景の中に,お金では手に入らない最高の贅沢がある。

本当に美味しい物は,無料だ。