「祭の男」宮田宣也のブログ/明日がもっとスキになる

今,守るべき,つなぐべきこころって何だろう。祭の男,宮田宣也の祭ライフと,祭哲学について。

踏み越えて生け②<完結>〜飛騨古川気多若宮神社例大祭,起こし太鼓〜

宙から見た景色は,どうだろう。

僕は棒の上にいた。下にはさらし姿の仲間たちだ。

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街の人達の好意で,僕も上に乗せてもらえた

祝い唄を,唄っている。

そこに見える街並,下で支えてくれている男たち。

身体を貸してくれた仲間。

僕の中をたくさんの感情が駆け巡った。

遠くを真っ直ぐに見た。支えてくれている仲間を見下ろすのはやめようと思った。

僕は今,古川の祭の中にいる。

 

「とーのまち!とーのまち!」

凄まじい怒号だ。

殿町の付け太鼓に数十人の男たちが群がっている。

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息が出来ないほどの熱量。

先導の合図で,太鼓は一気に走り出す。

太鼓と棒を高く掲げ,勢いに任せてぶつかるのだ。

もっと前へ。もっと高く。

身動きは,取れない。

たくさんの男たちの体躯が重なり合い,圧迫される。

細い身体なら折れてしまいそうだ。

必死に棒にしがみつき,さらに高く。

理屈など,ない。

呼吸が苦しくなるほど叫び,高く高く突き上げるのだ。

僕の必死の叫びに,後ろから突き上がる拳が呼応する。

振り返る余裕は無い。

姿は見えないが,声に,動きに,連動し,協力する。

しかし激しく動くと,流れるように人は入れ替わる。

そしてまた新たな無言の会話を投げかけるのだ。

そんな小さな連帯の連続が,目まぐるしく起こっている。

それが誰だろうが構わない。

 

祭は終盤へ。

最後は自身の街,殿町を太鼓がゆく。

長い道のりだ。

先輩たち曰く「今までやったことがないくらい」長いという。

新たな開始を待っている間、寒さをこらえている。

気温は0℃。

裸姿はあまりに寒い。

「ここから終わりまで、一気に行くので」

付け太鼓を仕切る係長が、興奮気味に伝えに来る。

最後は、スタートのおまつり広場へ戻って行く。

太鼓は高く掲げられた。

大きな起こし太鼓の輿の上にはたくさんの男たちが乗っている。

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起こし太鼓へ向かって,付け太鼓は突っ込んでいく。より高く,より前に!

無数の男たちの熱気の渦がどんなにうねろうとも,静かに,機械的に動いている。

合図とともに,今日のフィナーレが始まろうとしていた。

一気。

「まだまだ、もっと高く、前へ!」

高く掲げられた太鼓棒,刻まれるリズム,男たちの体躯に押しつぶされそうになる。

声を上げ,自らを鼓舞する。

密集し,猛り狂う群衆は酸素を奪いあい,息苦しくなって来た。

叫び,ぶつかる。

拳を上げ,それでも前へ。

叫びに呼応して後ろからも拳が突き上がる。

振り返る余裕は無い。

声が,身体が,心が連動していく。

着火した炎が燃え広がって行くように,刹那の間に上がる熱量。

一瞬の激昂は,いつしか連帯に変わっていく。

争うこころでも,怒りでもない。

激しく燃え上がった感情は,こころを,身体を動かしている。

炎のように伝わった熱量,切り開かれた回路は人間と人間をつなぐ。

祭りの奥にある魔法のような現象が,ここ古川にもあったのだ。

全ての役割を終え,太鼓の音は止まった。

そして誇らしげに,しかしどこか寂しげに,始まりの場所へと戻っていく。

はじめて出会った仲間たちの胸を借り,僕はその数時間を過ごさせてもらった。

数百年の間,そして今もたくさんの人の思いと行動により残されてきた伝統。

その時僕が感じた感動は,この街の人達が命がけで守ってきた文化の一端であるのだろう。

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胸を貸してくれた先輩たち。本当にありがとうございました!


会館に戻り,一人一人が配られた味噌汁をすすっていた。

そこに流れるあまりに穏やかな空気は,窒息しそうな先ほどの熱量とのコントラストを作り,男たちの気高い表情を作っていた。

古川の街で,僕はまた、美しく力強い祭の風景に出会った。