「祭の男」宮田宣也のブログ/明日がもっとスキになる

今,守るべき,つなぐべきこころって何だろう。祭の男,宮田宣也の祭ライフと,祭哲学について。

海外から見た日本文化〜リトアニア神輿渡御2020から学んだこと〜

令和2年8月29日,リトアニア首都ビリニュスにてお神輿の渡御が行われました。

昨年,"nowJapan"というイベントで渡御されてから2回目になりますが,今年2020年はリトアニアと日本をつなぐ「命のビザ」で有名な杉原千畝の生誕120周年とビザ発給80年の記念と年でした。

本来ならば日本からも応援に駆けつけ,盛大にお祝いしたかったところですが,コロナ禍によりリトアニア現地の方々だけで渡御を行うこととなりました。

リトアニアでお神輿が上がった

「命のビザ」杉原千畝

実はリトアニア初の神輿渡御が行われたのは2019年9月のことです。

バルト海沿岸では最大規模である"nowJapan"というイベントで,在リトアニア日本国大使館の協力により盛大に渡御が執り行われました。

日本ではあまり知られていないリトアニアですが,第二次世界大戦中,ドイツ人に迫害され,虐殺される危険があったユダヤ人に「命のビザ」を発給した杉原千畝のエピソードが有名です。

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「命のビザ」を発給した外交官,杉原千畝

2020年は杉原千畝生誕120周年,ビザ発給80周年の記念の年です。

本来ならば,両国の絆を今でもつなぎ続けている偉大な先人を偲び,今後の友好を願って盛大に祝い,お神輿も担ぎ上げる予定でしたが今年のコロナ禍により,規模縮小せざるを得ませんでした。

それでもお神輿を上げたい

今回お神輿渡御が行われたのは,ユネスコ世界文化遺産にも登録されているビリニュスの旧市街です。

お神輿はほぼ中心地の旧市庁舎から,大聖堂へ向かい,もう一度戻って来るというコース。約1時間半のプログラムでした。

しかし,今回は今までのように日本から訪れることは出来ません。

お神輿の組み立てや,当日の運行,そして何よりお神輿に神様を呼ぶ神事を行うことが出来ないのです。

今回のイベントはビリニュス市が主催し,日本文化を紹介,日本を疑似体験するというもの。お神輿渡御は日本大使館が主催することになりました。

リトアニアと日本の国交上大切な行事として行われることになった神輿渡御。

神様をお乗せしないわけにはいきません。

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教会の前で担ぎ上げられるお神輿(2019年nowJapanにて)

神事をオンラインで出来ないか?

考えついたのは,オンライン中継を利用して日本の神社から遠隔でお神輿へ御霊入れをする神事が出来ないかということ。

リトアニア側から日本との友好を願って行われる行事で,リトアニアの方々に担いで頂くからには,やはり本来の形で担ぎ上げてほしいとの思いがありました。

そこで相談したのは,岡山県にある備前国総社宮という神社です。

こちらの武部宮司は,お神輿が欧州に渡った時から現地へと赴いて頂き,神事を行なってくださっていました。

昨年のビリニュスでの神輿渡御においても,神事を執り行ってくださいました。

やってみよう!

岡山へ赴き,武部宮司に今回の件を相談してみたところ,「やってみよう!」と力強い返事を頂きました。

遠隔でも,岡山県の備前国総社宮からリトアニア旧市街,市庁舎前に置かれたお神輿に降りてきてもらうようにお願いすることは可能で,神社前からオンライン中継することも大丈夫とのことでした。

当日は旧市庁舎前に巨大なスクリーンが設置され,リトアニアの方々の前で日本の神社から中継されることとなります。

また,現地ではお神輿の御扉を閉じる役割の人が必要でしたが,スロベニアから駆けつけることになっていたビド・ロビンチッチ君が引き受けてくれることとなりました。

禊を行う方法などを神職と相談し,当日は総社宮神職による浦安の舞も奉納される事となりました。

私たちが毎日お仕えしている大切な神様だから

準備は万端。あとは当日のリハーサルで接続の不調がなければばっちりです。

しかし一つだけ大切な注意点が。

「今回お乗せするのは,備前国総社宮の大神様です。1000年以上この地に鎮座し我々神職が,毎日お祀りしながら大切にお守りしています。

リトアニアの地にお呼びしますが,神様にお喜びいただけるよう,そして失礼の無いよう,日本と同じように完璧には出来ないと思いますが,精一杯の気持ちを込めて扱ってください」

それが武部宮司からのお願いでした。

昨年はリトアニアでもスロベニアでもお神輿が上がりました。

現地で一生懸命に担いでくれた姿を見ている宮司と彼らには,大切な神様をお呼びする信頼関係がありました。

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岡山県岡山市に鎮座する備前国総社宮

いよいよ本番!

リハーサルを無事に終え,接続も問題なし。

zoomとyoutubeを駆使してオンラインでの配信の準備も完了です。

日本からは,現地の大使館職員,技術スタッフと連携をとり,電話は繋いだままです。

神事の開始,アナウンス,参加者への説明,御扉を閉じるタイミング。

息の合った連携が必要になります。

いよいよ,世界初の試みであるオンライン中継でのお神輿への御霊入れ神事が行われます。

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市庁舎前モニターに映し出される総社宮

山崎特命全権大使による玉串奉奠(たまぐしほうてん)

修祓,祓詞奏上,降神,祝詞奏上と神事は滞りなく進行していきます。

御扉閉扉の大役を授かったビド君も,真白な衣装に身を包み,塩による禊を行なってしっかりと執り行うことが出来ました。

次は,玉串奉奠です。

玉串奉奠とは,榊と麻,紙垂で作られた玉串を神前に捧げ,拝礼をすることです。

リトアニアには榊は無いので,代わりに現地の常緑樹を使用して作成されました。

関係者全員によって執り行われるのが良いのですが,すごく時間がかかってしまうため,代表者に合わせて一緒に周りの人たちも2礼2拍手1拝の作法で拝礼していただくことが多いです。

今回は在リトアニア特命全権大使の山崎史郎氏により日本国を代表して行われました。

担ぎ手を含めたリトアニアの方々も大使に合わせ,しっかりと拝礼してくださいました。

とても喜ばしい瞬間でした。

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山崎大使による拝礼

 

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リトアニアの方々も頭を下げてくれています


たくさんの期待をのせて

新型コロナウイルスの影響により,日本国内では神輿渡御は軒並み中止,ほぼ全ての場所でお神輿を担ぎ上げることが出来ません。

きっとそのことは日本全国の神社の神様にとってもさびしいことであると考えます。

しかし地球のどこかにお神輿を担ぎ上げる場所があるならば。

私は仲間たちに託してみることにしました。

日本の神様をのせたお神輿が両国の協力により,ヨーロッパにいる仲間たちだけの手で担ぎ上げられる。

そんな奇跡が起ころうとしていました。

お神輿が上がった

リトアニア旧市街の街は,歴史的な建造物が立ち並ぶ極めて美しい場所です。

特に今回渡御され,世界遺産にもなっているビリニュス旧市街最大の建物とも言えるビリニュス大聖堂は12世紀に建造されたビリニュスの象徴的な建物です。

その街並に日本のお神輿は美しく溶け込み,新しい時代の風景となっていました。

今まで15回以上欧州で神輿渡御を行なってきましたが,欧州の仲間たちだけで担ぎ上げられるのは今回が初めてです。

日本のお祭りと同じように,自分たちのお祭りを自分たちで守り育てて行くステップへと移行するきっかけになったのではないでしょうか。

お神輿という日本の文化が海を渡り,活き活きと動いて行く奇跡を目の当たりにすることが出来ました。

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お神輿の前を歩く浴衣姿の子供たち

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旧市街を練り歩くお神輿

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獅子舞も登場

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Mikoshi Guys!

当日の様子はyoutubeにて見ることができます。

<神輿渡御編>


<オンライン神事編>