お正月の神社での行事も終わり,次はどんど焼きの準備が始まっています。
毎年各地で行われる冬の伝統行事。
小正月(一月十五日)に合わせて行われているどんど焼きとは一体なんなのでしょう?
どんど焼きって何?
どんど焼きとは,とんど焼き,さいと焼き,どんどん焼き,左義長,ほんやりさま,オサイト,サイノカミなど地域によって様々な呼び方があります。
お正月飾りを集落で持ち寄って燃やすことで,年神様がその煙に乗って帰って行くと言われています。
全国各地で,小正月(1/15)周辺で行われています。
由来ははっきりしていない
どんど焼きは,実はその由来がはっきりしていません。
「平安時代,毬杖(ぎっちょう)と呼ばれる杖で毬を打ち合う(ホッケーのよう)遊びをしていた」(平安時代末期:年中行事絵巻)
そこで破損した毬杖や毬を燃やしたことが始まりだとも言われています。
また,三本の竹や木をくくって三脚のようにしたものをサギッチョ,サギチョウという説もあります。(柳田国男「神樹論」)
つくばで作られる櫓も,最初三本の竹の先をくくり,立ち上げてから作っていきます。
鎌倉時代に書かれた「徒然草」にも
「正月打ちたる毬丁(さぎちょう)を真言院より神泉 苑へ出て焼き上ぐる也」(第180段)
との記述があります。
また,安土桃山時代に狩野永徳により描かれた国宝「洛中洛外図屏風・上杉本」の中にも現在の形の原型になったのではないかと思われる櫓が描かれています。
代表的などんど焼き
それでは,全国にはどんなどんど焼きがあるのでしょうか?
必ずしもどんど焼きと呼ばれていませんが,同じ小正月に行われる行事として代表的なものを見てみましょう!
大磯の左義長(神奈川県中郡大磯町)
日時:平成31年1月13日(日)
重要無形民俗文化財指定
先ほど紹介した,神奈川県中郡大磯町の左義長は,神奈川県を代表する火祭りだと言えます。
大磯の左義長は,「一番息子」「サイノカミ」「オカリコ」「ヤンナゴッコ」など複数の行事が重なっており,鳥追い,道祖神祭り,予祝行事など複合的な民俗要素から成り立っていると言えます。(『神奈川県史 各論編5 民俗』)
大崎八幡宮のどんと祭と裸参り(宮城県仙台市)
日時:平成31年1月14日(月・祝)
仙台市無形民俗文化財指定
大崎八幡宮のどんと祭は松焚祭とも言われています。
松飾り,注連縄,門松,ダルマなどを大崎八幡宮境内にうずたかく積み上げ,燃やします。
大崎八幡宮最大の特徴はこの火めがけて参拝する「裸参り」があります。
白鉢巻・白さらしを巻き,口には私語を慎むための「含み紙」を加えます。
また右手に鐘,左手に提灯を持ち,仙台市内各所から数千人が参加します。
同祖神・左義長・歳神・予祝
どんど焼きには,様々な呼び名があるとともに,複数の意味合いがあることがわかってきました。
地方によって火祭りを行う風習は多く見られますが,その中に混在する複数の要素を少し整理してみることにします。
道祖神
道祖神とは,「路端の神様」であり,集落の入り口や三叉路など,石碑や石像の形で祀られています。
どんど焼きでは,この道祖神が,町の入り口で郷に侵入してくる悪いものを一身に引き受けてくれているためそれを焼き切るという意味があります。
サイノカミ=塞の神であるとも言われ,道祖神を表しているとも考えられます。
僕の地元でも,普段神社にある道祖神(丸石)を櫓の中に入れ,火を燃した後回収します。
左義長
左義長は,もともと平安時代末期の「年中行事絵巻」にも描かれている毬杖と呼ばれる杖で木製の毬を打ち合う遊びからその呼び名になったと言われています。
鎌倉時代の「徒然草」や,安土桃山時代に描かれた「洛中洛外図屏風」にも今と酷似した左義長の様子が見られることは特に興味深いですね。
歳神様・歳徳神
歳神様とは,稲作の神様であったり,地域によってご先祖様の霊であるとも考えられています。
お正月飾りは,この歳神様が宿るための依代(よりしろ)です。
これを燃やすことによって煙にのってお帰りになるという意味があります。
書き初めの和紙が煙に乗って高く舞い上がれば願いが叶う,という風習があったりしますね。
予祝行事
予祝行事,とは日本の様々な風習に見られるもので,大磯の左義長の時に見られる「ヤンナゴッコ」は,海から褌姿の男たちと綱引きをして引き上げるもので,大漁祈願の意味があるように見えます。
このように,大漁,豊作,商売繁盛などが実現したことを前提にして先に神様に対して祝ってしまおう,というのが予祝の風習です。
例えば春に行われるお花見も,その年の豊作を先に祝う代表的な予祝行事だとも言われています。
“春の一日,近郊の山や丘に登り,飲食を共にし,花を愛でる風習であるが,これは単なる遊びではない。「春山入り」「春山行き」と呼ばれ,山に登り飲食することは,山神,すなわちやがて田に降って田の神となる神との,いはば神人共食という日本の祭の原型がここに認められる。それによって山の呪力,花の呪力を授かるのである。”
(阪南論集 人文・自然科学編 「花見の都市-江戸・大坂の風土」谷口廣行)
もう良いことが起こったことにして先に神様とお祝いしてしまう,という日本人の在り方は,独特で素敵なものですね。
お餅を焼いて食べる
どんど焼きの際は,参加者にお餅が配られ,焼いた火で焼いて食べることがあります。
この火で焼いた餅を食べると風邪を引かないとか,虫歯にならないとか言われますが,どんど焼きの火には悪いものを払うという意味があるとされています。
毎年,地元ではこのお餅を作るため,米粉から作ったお団子を臼でつきます。
紅白の丸もちは,地元のおばちゃんたちによって綺麗に作られ,二またに別れた枝に刺して焼いて食べます。
まだ炎が上がっているような時に焼こうとすると熱くて全然近づけないため,大分おさまってから火に近づくのが上手に焼くコツです。